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第18回審査結果

審査委員 (50音順・敬称略)…勝城蒼鳳・外舘和子田中旭祥・諸山正則


最優秀賞(文部科学大臣賞)
一心三愛
伊藤 賢三
千葉県佐倉市
受賞作品講評

竹の弾性としなりを活かした、はち切れんばかりのボリューム感あふれる作品である。竹ひごは底から上へ充分な膨らみを示しつつ、上部中央で捩じれながら再び底へと向かう。竹ひごの透かし効果により、アウトラインを形成する空間の内部に、もう一つの空間が見える。構造そのものがフォルムになるという竹工芸の醍醐味を味わうことのできる作品である。(外館和子)





優秀賞(栃木県知事賞)


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花籠「竹林晩景」
寺島 秀昭

群馬県渋川市


受賞作品講評

ござ目編を基本に、焦げ茶と白の竹ひごの濃淡を駆使した、精緻で幾学的な文様のリズムを刻んでいる。確かな編の技術には微塵の破綻もなく整然としている。全体に細長いフォルムながら、下方をわずかに膨らませ、控え目な抑揚の効いた現代的な形態感を示している。ござ目編という極めてベーシックな編の技法によりながら、新たな表現の可能性を切り拓いてみせた清新な作品である。

外舘和子




技能賞(大田原市長賞)


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『松葉二重編波口花籠
本間 信夫
栃木県那須塩原市

受賞作品講評

内側の籠で形を作り、腰上のところに立竹を差して、高台と上部を松葉編で編む伝統的な技法である。松葉編は立竹が奇数になるように何箇所か飛ばして編んだところの傾斜を生かして文様としている。縁の曲線と耳は従来とは違った新鮮さが伝わり、色調も明るく全体を纏め、用の美としての竹工芸の味わいが出ていて好感が伝わる作品である。

(勝城蒼鳳)





技能賞(大田原市長賞)


公色波網代編盛籃
漣)
内藤 節子
栃木県大田原市

受賞作品講評

周囲の力強く束ねて縁取った中に、濃い赤を利かせた二色のひごが、揺らめく水面のような景色を示している。持ち手は中央で水平のラインを保ち、本体の楕円形との好バランスを得た。周囲の束ね編が、やや濃厚に過ぎる嫌いもあるが、水面を取り巻き、生い茂る草むらのイメージもあるのだろうか。全体に、作者の旺盛な意欲と技量とを充分に感じさせる作品である。

(外館和子)





デザイン賞(大田原市長賞)



『煤竹鉄線編盛籠(絆)
伊坂 富子
栃木県大田原市

受賞作品講評

楕円の形が美しい。その楕円を包み込むように太い線の楕円が創られ、更に光の楕円の輪が取り囲むように存在し、次に取手の輪に続いていく。全て楕円の構成になっていることが心憎い作品だ。楕円は二つの中心を持つ形で、様々な不思議な力を内包している。色々な風景を想像させる形を線と面に最大限に生かした作者の力量と構成力は見事である。

(日原公大)




デザイン賞(大田原市長賞)



手さげかご
井上 守人
栃木県那須塩原市

受賞作品講評

太い枠の変形ハートにデザインされたフォルムの中に細かく編んだ面を配置して優しい雰囲気を醸すハンドバックである。非常に平面性が強く、各方面から眺めるとそれぞれの形が違って見えるがそれほどの違和感はない。面の移り変わる場所を意識しない立体物は量のバランスを失う事が多いがこの作品は縁取り去れた骨組みの幅が面の量との均衡が取れているからであろうか、バランスがよい。、                                
                                                                         (日原公大)



デザイン賞(大田原市長賞)



『曲
佐藤 治生
大分県大分市

受賞作品講評

約1センチ幅で茶と無着色な材料をドーナツ形に規則正しく並べた量感あふれるオブジェ的な作品である。そもそも造形することは素材の質感を無視しては成立しない。竹の素材感は堅くしなやかで作者の思惑に沿って様々な形に変容する。得てして正円の造形は求心的な力が働き、バランス、安定感は増すがこぢんまりとしてしまう傾向がある。しかし、この作品は竹の堅い外側を使用しつつ、遠心力を感じるように色彩の違う素材感に隙間を持たせて空間感を与えている。作者の造形に対する思索と感性が滲み出た良作である。

 (日原公大)

                                                            



新人賞(実行委員会委員長賞)



鉄線編み盛籃
勝城 直
栃木県大田原市

受賞作品講評

鉄線編のたっぷりした盛籃である。見込みは濃淡に染め分けた籖を2本寄せして鉄線編みとし側面はそのまま流して透かし網代にしてあるのでスッキリとした印象を与えている。外側は幅広竹で荒組の四つ目とし縦材を挿してそのまま高台部の縄目へと続く。縁竹をマスキングして文様を出しているところが新人らしいアイデアで楽しい作品である。

(田中旭祥)





審査委員会奨励賞



鉄線編 私のバック
小林 次郎
茨城県古河市

受賞作品講評

竹のバックとしては見るからに頑丈に作られた男性用のバックであろうか。この作品は釣りの魚籠を彷彿とさせる。2種の巾の薄茶と濃茶に染め分け、3本寄せにして鉄線編で長六角の底作りから胴は長方形に編み、幅広竹で縁作りと側面に刺し込んだ力竹で丈夫に仕上げられている。蓋は印籠蓋で、内側は布張りされており三つ編みにした皮の肩掛けが付けてあり、小旅行に持って行きたいような作品である。

(田中旭祥)




審査委員会奨励賞



利休形なつめ(二点)
人見 心一
栃木県那須塩原市

受賞作品講評

六角クモの巣編みと麻の葉編みの2点は、共に編み始めの文様をいいます。胴編は縦網代と横網代で編まれています。このなつめは、利休形なつめを見本にして編まれたのでしょうが、籠で作られたことで涼を誘う作品となっています。

(勝城蒼鳳)



審査委員会奨励賞



花籃
高木 政美
栃木県芳賀郡益子町

受賞作品講評

柾材で中心部を束ね編みした楕円形の花籃である。この作品は中心のあわび結びから編み始めたと思われる。上部は6枚に編み分けてあるので深みがありグラスのダイヤカットの様な印象を与えている。底は入れ底で二重。高台となっている。柾材は拭き漆を施しても吸収が激しいので、回数を重ねてもう少し艶がほしいところであるが、大ぶりで安定感があるので花をたっぷり活けるのに適している。

 田中旭祥)


審査委員会奨励賞


花籠
笹沼 睦
栃木県大田原市

受賞作品講評

作者は経験年数3年余りであるが手慣れた仕事ぶりである。晒し竹で作られた本体は底を四方網代で組み胴編みを横網代の後、前後2枚の四つ目編みとし縁は4本を一束として、束ね編みでまとめている。この作品の特長は底の力竹をそのままササラに割り単調になりがちな側面に動きをそえている点である。小ぶりながら山野草を一輪挿したくなるような作品である。

 (田中旭祥)


審査委員会奨励賞




≪鉄線編み手さげ籠「月の雫」≫
久保田 和子
栃木県那須烏山市

受賞作品講評

六つ目の中に小さな風車の文様に見えるのが鉄線編である。その文様の中心と六つ目の交差のところにビーズを付けて、月の雫のイメージを演出している。竹籠にこのような指向をすることは違和感を生じやすいが、この作品は白錆竹の素材とマッチして作者の感性が作品に表現されている。

 勝城 蒼鳳


審査委員会特別賞

≪12角盛器≫
吉田 正和
埼玉県日高市

受賞作品講評

見込みの文様は削り出して透かし、丸の中に収めている。その周りを12個の網代編のパーツで囲み、12角にして縁取りされている。このような作りはパーツを工夫することで造形の幅を広げることが出来るので、これからの作者の創作が期待出来る作品である。

(勝城蒼鳳) 





〜第18回 全国竹芸展 総評

外館和子

応募総数は137点と、飛躍的に伸びた前回よりは僅かに2点減となったものの、昨今の公募展状況からすれば、この展覧会の注目度の高さはなおしっかりと維持されているといってよいだろう。また、関東や東北などの応募が増えつつあることは、大田原市が東日本の竹工芸において、重要な役割を担っていることを示してもいる。さらには、竹工芸の盛んな大分や大阪など、西の竹工芸を代表する地域からも出品が続いている。こうした状況は、いわば竹工芸において大田原が東の拠点となりつつあることを暗示しているのではなかろうか。
 今回の審査は、東京国立近代美術館工芸館の諸山正則氏が用務で欠席され、宇都宮大学名誉教授で彫刻家の日原公大氏、重要無形文化財保持者で竹工芸家の勝城蒼鳳氏、同じく竹工芸田中旭祥氏という作家3名に加え、外館が審査員長を務め、計4名で行った。作家と学識者が  なく意見を言い合うという点でも、この審査の現場は極めてフェアである。 作風の多様さ、あるいわ新人からベテランまでという応募者のキャリアの違いなど、他では見られない充実した内容の作品を、例年通り、最優秀賞・優秀賞・技能賞・デザイン賞・奨励賞と、順次厳正な投票で選考した。最優秀賞受賞の≪一心三愛≫は竹のしなりや弾力を活かした空間性豊かな作品。一方、優秀賞≪花籠 竹林晩景≫はござ目編を基本に、焦げ茶と白の竹ひごの濃淡を駆使したモダンな文様とフォルムで新鮮な佇まいを見せる。竹工芸の編組技法のうち前者は組物の、後者は編物の可能性をありありと示す優品である。いずれの賞もほぼ明確な投票差がつき、例年より円滑な審査が進んだ中で、技能賞の候補は僅差で複数の作品が並んだが、技術がよりしっかりと<表現>に結びついたものが選ばれた。                                 デザイン賞についても≪曲≫など従来にない新鮮な造形がみられ、また新人賞の≪鉄線編み盛籃≫には新人らしい意欲があふれている。奨励賞にはバックや棗など用途に即した多様な表現のほか、≪12角盛器≫など他の賞の候補にも挙がった作品を含め、いずれもが評価され、5点選考を基本とするところを、最終的に計6点が奨励賞に選ばれた。                   今年は家具などの大作はなかったものの、作者がそれぞれ作りやすいサイズで自由に、また丁寧に各自の仕事に取り組んだ様子が感じられた。                            この展覧会の近年の受賞作には、海外の美術館に収蔵されるものも出てきており、技術、表現力とも着実に竹工芸の現在を伝える内容になってきている。この竹芸展が、受け手に大きな感動をもたらすとともに、作り手同士が互いに刺激し合える場になることを願っている。