こんな成分にご注意

「食べすぎたときには胃薬」「かぜをひいたときにはかぜ薬」というように、私たちは症状に合わせて市販薬を選びます が、意外に知らなかったり、忘れがちなのが「体質や持病に合わせた薬選び」です。薬はときとして「毒」にもなるもの。 なかには、あなたの体質や持病に合わない成分もあるのです。ですからせっかく症状に合わせて選んでも、体質への気配 りを忘れたために効きめがまったく得られないばかりか、ときには体に悪い影響を及ぽすこともあるので、たいへん危険で す。たとえば急に体調を崩したり、持病が悪化したと思っていたら、服用した市販薬が原因だった、ということも実際にあ るのです。
 したがって
市服薬を購入するときは、症状とともに体質や持病 も十分考慮したいものです。とくにアレルギー体質の人や高血圧、腎臓病、心臓病といった成人病を抱える人は、購入の際 に成分表示をしっかリチェックする必要があります。
 そうはいっても市販薬の場合、自分で薬を選ぶことが多いため、十分なチェックができないことも考えられます。その ため、病院の薬に比べると効きめがおだやかにつくられているとはいえ、病院の薬よりもかえつて事故が起こりやすいと いう面もあるのです。
 そこで、できれば、日頃から市販薬を購入するいわゆる”かかりつけ薬局”を決めて、そこの薬剤師に相談しながら 体質や持病も考慮した薬選びをおすすめします。
 ただし、最近では薬剤師のいない大型の薬店もあり、セルフチョイスの機会も増えているので、基本的な薬の知識を 持っておくことは必要です。


心臓病の人は、甘草(グリチルリチン酸〕にご注意

 心臓の悪い人が注意したいのは、生薬のひとつである甘草エキスが含まれた薬です。甘草は、かぜ薬によく配合さ れています。たとえば、「葛根湯」「コンタック総合感冒薬顆粒」「プレコール持続性カプセル」などのかぜ薬がそ うです。
 ところが、この
甘草に含まれるグリチルリチン酸には、塩分や水分を体の中にためやすい性質があるので、長期間の服用はむくみや 血圧上昇といった状態を招きやすく、結果として心臓に負担をかけ過ぎてしまいます。 ですから、心臓に持病がある人は、甘草エキス入りのかぜ薬の服用には注意が必要です。



高血圧の人は、炭酸水素ナトリウム、朝鮮人参にご注意

 血圧が高くて塩分制限の指示を受けている人は、制酸剤配合の胃薬には気をつけましょう。
 制酸剤には、出過ぎた胃液を中和して胃酸が胃壁を荒らすのを防ぎ、ゲップや胸やけをすばやく鎮める効果がありま す。この成分としてよく利用されるのが炭酸水素ナトリウムですが、実は
胃薬によっては、1日3回の服用で、塩分1.6gの摂取に相当するものもあります。 これは高血圧の人には見過ごせない分量です。高血圧の人は1日の塩分摂取量の上限がだいたい6〜7gですから、 よく効くからといって制酸剤入りの胃薬を安易に服用するのは禁物です。
 炭酸水素ナトリウム配合の胃薬としては「キャベジンコーワ錠」や「タケダ胃腸薬21」「センロック錠」「太田胃散」 などがありますが、高血圧症の人はこのような胃薬の長期服用は避け炭酸水素ナトリウムの入っていないものを選びま しょう。炭酸水素ナトリウムの入っていない胃薬には「イノセアグリーン」 「サクロン」などがあります。

 また、漢方薬にも高血圧の人が注意したいものがあります。ご存じのように、漢方では体質を「実証」と「虚証」 とに分類します。「実証」というのは体力があり、胃腸が丈夫で疲れにくいことを指し、反対に、やせていて疲れやす い虚弱体質の場合は「虚証」と呼びます。このように体質に合わせて薬を選んでいくわけですが、証に合わない薬を 服用すると、ときに怖い目にあうことがあります。
 たとえば、病中病後の滋養薬として愛飲される
朝鮮人参は虚証向けの薬ですが、これを実証の人が服用すると、血圧が上がったり、眼底出血や脳出血を起こすこと があるのです。 健康な実証の人でも、かなり危険な状態になるのですから、高血圧の持病がある実証の人はとくに注意が必要です。 漢方薬を服用するときには、必ず専門家のアドバイスを受けましょう。



腎臓病の人は、炭酸水素ナトリウム、甘草(グリチルリチン酸)にご注意

 慢性腎炎やネフローゼなどの腎臓病で、医者から塩分制限を指示されている人は、高血圧の人と同じように、 炭酸水素ナトリウム配合の胃薬は避けましょう。とくに腎臓病の人の中には、高血圧症を併発しているために一日 の塩分摂取を5gに制限されている人も少なくありません。「胃薬に含まれるナトリウムなら大丈夫」などと軽視 せず、十分注意してください。
 また、腎臓病の人は甘草エキス配合のかぜ薬にも注意しましょう。甘草に含まれるグリチルリチン酸には、体内 に水分や塩分をためる働きがあるからです。
甘草配合の薬を服用すると、ときには血圧が上昇したり、むくみや体重増加(水分が貯蓄されることによる)が起 こることもあり、腎臓にはかなりの負担がかかります。
 最近のかぜ薬は生薬配合が人気で、甘草もよく含まれる成分のひとつですから、購入する際は、成分表示をよく 確かめましょう。


アレルギー体質の人は、タンニン酸アルブミン、塩化リゾチームにご注意

 アレルギー体質の人のなかでも、
牛乳アレルギーの人が避けたほうがよいのは、タンニン酸アルブミン配合の下痢止め薬です。
 タンニン酸アルブミンは腸粘膜のたんぱく質と結合し、腸壁に被膜をつくって腸粘液の分泌を抑える働きがあり、 下痢のなかでもとくに食べ過ぎで腹痛を伴う症状に、優れた効果を発揮します。しかしこの成分は、牛乳のたんぱく 質を原料としているため、牛乳アレルギーの人や牛乳で下痢しやすい体質の人が服用すると、アレルギー症状が起き ることもあるのです。また、下痢を止めるために服用したはずなのに、体質に合わないためにかえって下痢が悪化す ることもあります。
 タンニン酸アルブミンを含む薬としては「ビオフェルミン止瀉薬」や「大正下痢止め」などがありますから、牛乳 アレルギーの人は十分注意してください。
 なお、下痢止め薬のなかでも「セイロガン糖衣A」や「正露丸」はタンニン酸アルブミンの代わりに、クレオソー トや生薬を配合しているので、牛乳アレルギーの人でも安心して服用できます。

 また、
卵アレルギーの人が気をつけたいものは、かぜ薬に配合される塩化リゾチームという成分です。
 この成分には、かぜによるのどや関節の痛みをすみやかに鎮める働きがありますが、二ワトリの卵からつくられて いるので卵アレルギーの人が服用すると、かゆみや炎症、ぜんそくなどの症状が悪化する恐れがあります。
 なお、この成分が含まれるかぜ薬で、よく知られるものに「パフロンSゴールド錠」や「新ルルA錠」 「コルゲ ンコーワET錠」などがありますが、卵アレルギーの人はこれらの薬は避けたほうか無難です。



緑内障の人は、ロートエキスにご注意

 緑内障の人は、ロートエキスが配合された胃薬の服用は避けたほうがいいでしょう。なぜなら、場合によっては失 明の恐れがあるからです。
 ロートエキスには、副交感神経の働きを抑制して胃液の分泌を少なくし、胃の不快感や痛みをやわらげる作用があ ります。しかし同時に、体全体の筋肉を緩める作用もあるのです。そのため、
緑内障の人がロートエキスを配合した胃薬を服用すると、瞳孔が開いて房水の循環が悪くなり、眼圧が上昇して緑内 障の症状がいっそう悪化してしまいます。 また、これに加えて、涙や鼻水、尿などの水分の分泌も抑えられてしまいます。
 緑内障の人は、胃薬の選択にはくれぐれも気をつけてください。



妊娠中の人は、ダイオウ、センナ、ビタミンA、Dにご注意

 妊娠中の女性が薬を服用すると、おなかの赤ちゃんに影響を及ぽす可能性があることはよく知られています。 とくに
妊娠初期16週までに強い薬を服用した場合は、胎児に奇形が生じる恐れがきわめて高いので、この時期の服用は絶 対に避けるべきです。
 万一、うっかり飲んでしまった場合は、産婦人科のお医者さんに相談しましょう。ただし、妊娠初期は妊娠してい ることに気づきにくい時期なので、妊娠の可能性がある女性は、次の生理があるまで市販薬を服用するのは控えた方 が良いと思います。
 ところで、効きめがおだやかな漢方薬やビタミン剤程度なら大丈夫だと、思い込んでいる人も多いのではないでし ょうか。しかし、これらにも細心の注意が必要なのです。便秘薬によく含まれている
ダイオウやセンナなどの生薬は、長期間にわたって習慣的に服用すると骨盤を充血させるため、妊娠中の人の場合、 流産の恐れが出てきます。

 また、ビタミン剤のなかに、「妊娠中の栄養補給」をうたう商品もありますが、これを過信するのは禁物です。
ビタミンAやビタミンDを大量に取ると胎児に奇形が起こることが知られています。 妊娠中はビタミンやミネラルの補給をしなければなりませんが、安易にビタミン剤やドリンク剤に手を出すのは考 えものです。やはり、薬から大量に取るのではなく、ふだんの食事を通して自然な形での摂取を心がけたいもので す。
 なお、出産後に母乳で育てる場合も、薬の成分が母乳を通して赤ちゃんに吸収されてしまうので、妊娠期間中と 同様、服用には十分注意すべきです。


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