2004/02/02
地域再生の戦略プラン  足利銀行破綻後の産業金融一体再生
 
 破綻金融機関の資産は、どのように切り分けられてきたのだろうか。整理回収機構(RCC)が買い取った債権額の割合は、簿価ベースで旧日本長期信用銀行が31%、旧日本債券信用銀行が48.5%、地域銀行7行合計で49.4%である。栃木県では1信金・5信組が破綻しており、その中で42%がRCC送りとなっている。

 昨年、預金保険法第102条3号措置により破綻処理手続きに入った足利銀行の貸出資産は約4兆円。仮にその4割が切り分けられると、約1.6兆円。「適正な」価格を健全行からの買い取りのように簿価の約1割程度とすると、足銀には1兆数千億円穴が開き、これが税金投入の額になる計算だ。

◆なぜ足利銀行は破綻処理されたか
 なぜ足利銀行はりそな型の資本注入による国有化でなく、破綻処理の道をたどったのか。この疑問に対し私は昨年12月4日に衆議院で開かれた財務金融委員会の閉会中審査において、巷で耳にした4つの見解を紹介した。

 第1は、完全ペイオフ解禁を05年4月に控え、次期通常国会にて審議される「予防注入新法」を通すための『スケープゴート説』。足銀を「りそな型」で処理した場合、新法の必要性が問われかねないし、地域金融機関に対し、再編合併の圧力がかからない、というもの。

 第2は、『りそなで懲り懲り説』。りそな救済は、生保や他のメガバンクへの波及を避けるための株価対策ではないかと言われ、モラルハザードであるとの批判を受けた。今回は、足銀株を紙クズにしても株価への影響はないと判断したというもの。

 第3は、『対日投資促進説』。ブッシュ・小泉会談において、対日投資を促進しようという合意がなされた。日本株投資が進む中であおぞら銀行も結果的には外資系ファンドが買っている。ここで地銀に新たな出物があれば、対日投資がさらに促進されるというもの。

 第4は、「北朝鮮制裁説」。ブッシュ政権は当初から「日本の金融問題は安全保障の問題だ」と言っていた。2年前まで北朝鮮への送金を続けてきた足銀を破綻させて徹底的に暴いてやろう…というもの。

 無論、竹中大臣はすべて否定し、あくまで債務超過となった足銀の申し出により特別危機管理銀行として認定し、システミックリスク(不安の連鎖反応)を回避する道を選んだと説明した。私に言わせれば、金融に特有のシステミックリスクを回避する原則とは本来、銀行を破綻させずにオープンバンクで支援するやり方を言うのであって、公的資本注入はそのための例外的な手法である。債務超過であるか否かというのは関係がない。しかし、98年、金融健全化法を作る時に、「健全な銀行」に入れる公的資本なのだから、毀損せずに必ず戻ってくる、というフィクションを前提に制度が作られた。「資本である以上毀損することも認めろ」という私の主張は通らず。結果として、返済可能な分だけ逆算方式で注入され、問題の根本解決が中途半端に終わったのは周知の事実である。

◆「黒・担・長」の合言葉
 足利銀行は栃木県内において、預金の4割、中小零細企業向け融資の6割のシェアを持つ。よく比較される旧北海道拓殖銀行の道内シェアが23%で、都銀であるがゆえに信金・信組の顧客までカバーしていなかったのとは、大違いである。足銀は底引き網で小さな魚まで持っていってしまっている。しかし、破綻に至った原因はそのガリバー的規模ではなく、一言で表すとすれば『特定の業種に向けた大口の貸出が劣化し、不良債権化したこと』である。

 「黒・担・長」とは、足銀で盛んに用いられた合言葉で、『黒字企業』から不動産による『担保』を取って、『長期貸出』を行うという意味である。足銀はこの合言葉のもと収益向上を夢見ながら貸出の拡大を続けていった。一つの目標に向かって一丸となり進む力は強みであった。

 ここで注目すべきポイントは、膨張した貸出の『質』である。足銀の貸出対象は隣県地銀である群馬銀行に較べると、製造業(18%)よりサービス業(24%)が多く(群銀は逆)、使途別残高では設備資金の比率が多い(足銀41%、群銀35%)。また、無担保融資が20%と高い(群銀8%)。足銀はバブル期からその崩壊後の一定期間において、当時の地銀の業界平均を大きく上回る伸び率で貸出を増加させ、旅館業・ゴルフ場・パチンコ業などに大きく偏った貸出を積み上げていた。

 しかし、株価下落を背景に、97年の山一・拓銀ショックの頃には地獄の取り付けが起こった。当時、私は三洋証券の会社更生法申請に伴うコール市場での戦後初のデフォルトを知って、「これは平成金融恐慌の勃発だ、優先株の買取機構を作れ」と主張した。98年3月期には金融安定化法による300億円の劣後ローンが足銀に注入されたが、焼け石に水。銀行自己資本の基本的項目(ティアT)が痛んでいる時、補完的項目(ティアU)の補強が行なわれただけだった。

 結局それでは足りず、99年には400億円の第3者割当増資、地元自治体及び経済界を含め約3千先を対象とした428億円の優先株式を発行。地域から信頼される金融機関であるからこそ国が支援するという大義名分のもと、金融健全化法により、10年で返済する計画の1050億円の公的資金(優先株)が注入された。この結果、足銀の自己資本比率は業界平均に並ぶ10%となった。しかし、毀損を認めない逆算方式の額であるがゆえに、真に充分であったとはいい難い。

 デフレと地域経済悪化も加わり、監督当局に提出した計画と業績は徐々に乖離の幅を広げていく。01年には金融庁検査を受け、更なる不良債権処理と株式の減損処理を盛り込んだ「あしぎん改造計画プロジェクトA」を発表。これが大幅な赤字と繰り延べ税金資産の増大をもたらすこととなる。

 私は02年3月、自民党国家戦略本部の「経済危機管理」チームの主査として、政治主導の産業金融一体再生の枠組作りを官邸に提言。公的優先株注入行の正しい国有化の仕方として、まず剰余金が涸渇したら普通株に転換し、資本準備金が底をついたら減資、資本不足なら早期是正措置を発動し、株主としての政府が普通株式による第三次資本注入を金融庁に申請・実行を促し、その上で銀行のビジネスモデルの変更も視野に入れた金融再編を断行すべし、という至極当然のことを指摘した。

 02年3月期、足銀は1280億円という大幅な赤字を計上し政府に対する優先株式の配当は不履行となった。しかし、足銀だけではなかったが、金融庁は普通株転換によるガバナンス強化という選択肢は放棄したのである。

◆ダッチロールの様相を呈した金融行政
 こうした「民間にできることは民間に」という倒錯した当局との宥和的な関係は、竹中金融担当相の登場により変化していく。02年11月、足銀は持ち株会社構想を金融庁に持ちかけた。りそなホールディングスの二番煎じだが、合併差益を資本準備金に組入れ、それを取り崩して配当可能利益に算入できる商法改正によって、「法的資金」が使えるようになったからである。当初の金融庁からの回答は「99.99%認められない」というものであったという。しかし、その回答はわずか1ヶ月程度で後退。03年3月、足利銀行は持ち株会社「あしぎんフィナンシャルグループ」を設立し、配当原資を確保、優先株式の2期連続無配を食い止めた。その半年後の蹉跌であった。

 政府が、「3号措置」を決めた時の、地元関係者が受けた衝撃度は大きかった。特に、5年間塩漬けの足利銀行(破綻時点では、あしぎんFG)の優先株を購入した取引先企業、個人は激しい怒りと深い落胆に陥った。通常は経営者に向けられる批判の矛先が、今回は一貫性を欠いた行政、その走狗となって突然手の平を返した監査法人、そして、破綻を回避できなかった非力な地元選出国会議員に対して向けられている。

 主な破綻の責任は歴代の経営者にある。また、株主となって副知事を重役として送り込み、内規改正により足利銀行の内部資料閲覧権まで付与されていた栃木県の責任は軽くない。しかし、免許法人である銀行の場合、生殺与奪の権限は当局にあり、98年に『佐々波委員会』が最初の公的資金投入をして以降、頭取の経営者としてのフリーハンドは実態的にはなきに等しかった。

 同行の取扱いは、全国の地銀を担当として抱える金融庁銀行第2課にとって最大の難問であった。しかし、国有化の及ぼす影響を計りかねているうち、当局にとっての選択の幅も狭まった。金融庁は、結局、経営再建のための時間を足銀に与える道を選んだ。少なくとも、頭取始め当時の経営陣はそう受け取り、急進的、抜本的な改革案を放棄する。りそな救済は危機認識をさらに薄れさせた。

 私は昨年7月9日、栃木県幹部と県選出国会議員の懇談会で足銀の繰延税金資産は中核的自己資本の1.8倍もあり、その回収可能性の危うさを指摘した。回収を確実なものとするための収益力を強化するには県の支援が必要であり、01年から足銀の起死回生戦略プランとして検討されてきた行政・金融・産業の連携によるネットワーク型金融サービスの決断を県がするよう、改めて迫った(私は01年11月にもこの定期会合で後述する栃木県産業再生委員会構想とともに提案し、増資だけでは足銀再生は不可能であると訴えている)。地元メディアも入っている公開の席上である。しかし、暖簾に腕押し。一部県議を除いて反応は皆無であった。

◆「特別危機管理銀行」の位置付けと国選頭取の役割
 そして、いま正に別のボタンの掛け違いが、進行している。事の当否は別として、3号措置は、内閣総理大臣の命令で、財産の棚卸(適・不適資産の分別)、経営計画の策定(預金保険法115条)、旧経営者の責任解明(同116条)を行った後、できる限り早期に、合併、営業譲渡、株式譲渡(以下、これらを合わせて「処分」)を行うよう定められている(同120条)。その際、合併には、受け皿銀行への吸収合併、受け皿銀行との新銀行の設立をする方法が想定されている(図:『特別危機管理銀行』の経営を巡る様々な動き 参照)。

 りそな型の1号措置であれ3号措置であれ、国選の経営者として国有化された銀行の暖簾を大事にすることは大前提である。しかし、1号措置が国有化銀行自身による再生を期待しているのに対し、3号措置では「早期」の「処分」を義務付けている。これは、決定的な違いだ。行政、国選頭取ともに、関係者に甘い期待を抱かせるべきではない。足銀は出口まで債務超過のまま行くのであって、運転資金・設備資金の増加需要に応じるリスクテイクは期待されていない。焼け太りを防ぎたい、というのが立法の趣旨なのである。国に頼めばピカピカの銀行にしてくれると思っていたら大間違い。受け皿が決まらなければ、地域経済はボロボロにされてしまうことだってありうるのだ。

 金融当局も、マニュアルが何もない上、足銀のような地域密着度とシェアの高い金融機関の破綻処理を手掛けるのは初めての経験であり、手探り状態と言ってよい。特別危機管理銀行が国選頭取に期待している第一義的役回りは、責任解明と負の遺産の切り離しまでであり、残された稼働資産、営業権をどうするかは処分先の受け皿金融機関が決めることである。特別危機管理期間を2年、3年と引き延ばすことは、後発事象との区別がつかなくなるので、行政責任回避の観点からは都合が良いかも知れないが、優良企業はみな逃げる。また、再生と称して不良企業に債権放棄するだけでは過剰供給構造は是正されず、地元経済活性化は実現しない。行政も国選頭取の手足を縛りながら、法の規定が不備なところは「自分で考えなさい」などという態度をとってはいけない。できること、できないことを明確にすることがむしろ、安定した信用秩序の維持に繋がるのだ。

 一方、実際の計画細部の策定を行うのは、以前の体制を支えてきた次長、副部長などの中堅幹部である。彼らには、これまでの施策を温存する誘因はあるが、新機軸を打ち出す体制になっているか疑わしい。当局と国選頭取の競演ではなかなか中期的再生に繋がらない、という背景には、こうした事情も存在するのである。したがって、その是正策として、積極的に外部の識者の助言を受ける仕組を作るようにすべきだ。足銀の経営諮問委員会は同様の目的意識で設立されたが、大御所のご意見拝聴という色彩が強かった。いま必要なのは、実務レベルで戦略性のある外部意見を参考にすることだ。ファイナンシャル・アドバイザーを選任する場合はこうした観点を重視すべきである。

◆産業再生なくして銀行再生なし
 地元における足銀人気は高い。しかし、そのことは地元企業の大半が赤字で借入過多に陥っているという惨憺たる現実に根ざしている。金利が上昇すれば、フリーキャッシュフローはたちまちマイナスとなり、貸出債権の更なる大幅な毀損は避けられない。こうした産業と金融の一蓮托生の関係は、今後の地域金融再生を考える上で、顧客との強固な紐帯があるという意味では大きな資産であるが、リスク管理を徹底させ、銀行の価値を最大化していく上では、負の遺産である。地域経済は相互依存関係が強く、利潤極大化だけでは判断できない面もあろう。しかし、行員、店舗などが集団としての価値を持つためには、有機的なリスク管理体制が有効に構築できているかどうか、に掛っているのである。

 厳しい国際競争の中で切磋琢磨してきた製造業は、全体としてみると、資本と負債がほぼ同規模水準になってきたのに対して、政府の規制と保護が手厚い非製造業の場合には、バブル崩壊後15年を経た今日でも負債が資本を大きく上回っている。とくに中小零細の非製造業ほどこの傾向が顕著である。わが国不良債権問題の本丸は、この構造的過剰債務問題に他ならない。大手製造業の生産工場は県内に数多くあるが足銀の顧客ではない。地元中小零細非製造業の過剰債務問題をいかに克服していくかが最大の課題である。問題の核心は産業再生にあり、栃木の地域金融が再生するかどうかはそれ次第。決してその逆−銀行が立ち直れば産業も立ち直る、ということではない。この理解こそが、従来多くのエコノミスト達が地域経済の活性化案を論じる時、見落としてきた決定的な論点である。産業再生機構を作った政府でさえこの認識は極めて不充分だ。

 そこで産業再生のための具体策を述べる。地域産業再生のポイントは、4つある。

 第1は、地域産業再生は、「点の再生」ではなく、「面の再生」でなければならない。原則として、過剰供給構造是正のため個別企業の単独再生は認めないようにした上で、地域全体の再生、産業単位の再生を目指す。具体的な手法としては、例えば、持株会社を作り、再生企業群をその下に連ねる。このことは、鬼怒川などの温泉地を例にとって考えると分かり易い。需要と供給のミスマッチ解消のため、ホテルを有料老人ホームやクアハウス等へ転用する程度であれば良い。しかし、温泉地全体の風情、景観に全く合わない土地建物の利用には規制が必要だ。その上で個々の特色を出していく。また、供給過多の建設産業は公共事業の入札制度改革とセットで業種転換を促しつつ、再編統合を進めなければ、生産性の向上や競争力の強化は望めない。

 第2には、地元全体の過剰債務と過小資本構造からの完全脱却を図ることである。このための具体策として、@債務者には債務超過の穴埋めのため私財提供を求めた上で足利銀行が十分な債権放棄を行う、Aメインバンク(多くの場合、足銀)の貸し手責任は深堀りする、B債務を株式や劣後ローンに転換する(DES、DDS)ことにより、債務者企業の資本を強化(既存株式は減資)することなどを提案したい。但し、「カラDES」や「擬似DES」と言われるアリバイ作りの手法が横行しており、二次破綻に至ることのないよう厳正なチェックが必要だ。

 第3に、DIPファイナンス(再生のための出融資)を行うことである。デットでなくエクイティでも良い。例えば、団体客向けだった温泉旅館がファミリー向けのモデルに転換する場合、子供の好きそうなお風呂を作る必要がある。需要構造に見合った供給サイドの刷新を行うのに、ニューマネーなしの再生はあり得ない。DIPは法的に優先弁済権が確立されていないため困難がつきまとう。国有足銀に無理なら政府系金融の出番である。

 第4に、産業再生機構はサブの金融機関から「適正価格」で債権を買い取るのであり、メインの足銀が充分な債権放棄で貸し手責任を取らなければ、サブの債権は適正価格にはなりえない。他の地域金融機関も相当血を流す覚悟が必要になるかもしれない。竹中大臣は「他行への債務者区分の横串は刺さない」と言っているが、再生を進めていけば他行への横串圧力は自動的にかかってしまうのである。なお、一般の小口債権は全額保護されるべきであり、裁判所が民事再生法や、会社更生法で認定するより広く一般取引先は保護されてよい。

◆『栃木県産業再生委員会』の設置を急げ
 こうした地域産業再生策には、司令塔が必要だ。私は、地方自治法138条の4第3項に基づき、知事のほか、足利銀行やその他の県内金融機関、整理回収機構、産業再生機構、政策投資銀行始め政府系金融機関の代表、民間有識者・再生のプロからなる『栃木県産業再生委員会』(仮称)の設置を提唱したい(図:足銀破綻後の産業金融一体再生のイメージ 参照)。この委員会は、地域経済活性化のため国有足銀に対して、地域再生計画の策定に関する勧告・承認・調停・フォローアップを行う。また、貸し出し債権の再生可能性について調査・質問をできるようにする。個別企業の生死を判定する閻魔大王としてよりもむしろ、地域間競争力の強化や、業界全体の生産性の向上を目指す、いわば極楽浄土の阿弥陀如来型再生を行うのである。

 なぜ大掛かりな仕掛けが必要なのか。それは、このところ、中小企業庁の音頭取りもあり、全国各地で地域版の事業再生ファンドを設立する動きが活発化してきている。しかし、足銀破綻という原発の炉心溶融に見舞われた栃木県の場合、こうした話題づくりの数十億円単位の仕掛けでは、焼け石に水。対象となる再生可能な貸出債権は、県産業のあり方そのものを左右する、桁外れの金額になる可能性が高い。知事始め、県・市町村、県内金融機関は、腹をくくって本格的対応を進めるべきだ。また、専門的知識、事務処理コストもこれまでの例とは比較にならない。政府系金融機関を含め、公共性の高い先のヒト・モノ・カネの支援を広く仰ぎながら、有機的な結合を図る司令塔が栃木県産業再生委員会なのだ。

◆地域金融再生のポイント
 最後に、肝心の足利銀行自体を受け皿銀行に如何に「処分」するべきかについて、私見を述べたい。

 まず、受け皿銀行への処分と地域産業の再生とをワンセットで考え、出口の将来ビジョンを明確に示すことだ。来年度末までに処分を完了できるといい。それは、破綻銀行も企業も時間の経過とともに劣化して行くためであり、ガリバー足銀の劣化は共通の顧客を媒介に、他の地域金融機関の劣化をもたらすからである。そのためにも、前記『栃木県産業再生委員会』のメンバーのうち、栃木県知事、足利銀行頭取、民間有識者のコアメンバーに『受皿銀行検討チーム』を組成させ、「出口」戦略を作ることが重要だ。地域産業再生計画と表裏一体の関係にある受け皿銀行に貸出債権が引き継がれれば、過剰債務の重圧から解放された借り手の信用度も向上する。

 受け皿銀行による足利銀行の貸出債権の引き継ぎ方には様々なパターンがある(図:資産価値維持のための方策 参照)。@一番単純なものは、自然の成り行きに任せ、国有期間を十分長く取る方法。恐らく市場主導で優良な借り手のシフトアウトが生じ、足銀は結果的にバッドバンクとして最終処理される。A同様に市場原理に任せるにしても、時限を短く定めるやり方。これは過度に厳格な資産査定が行われ、破綻債務者が増大する可能性が高い。長銀や日債銀のような激変緩和の瑕疵担保特約は批判が強く、ロスシェアリング・ルールにとってかわられている。引当を積み増して無理やり北洋銀行に引き取らせた拓銀のやり方は、破綻処理に関する制度が未整備の時代の話。保険機能の活用を含め、実現性のある具体案の策定が必要だ。B足銀の債権を地域ごとに分割譲渡することもあり得る。例えば、県内を栃木銀行に、茨城、群馬、埼玉などの県外の営業権を地場の地銀に譲渡。受け皿の各地銀は、暖簾代見合いで、足銀が抱えている信用費用の一部を負担することになろう。しかし、事業採算が県内を上回っている県外基盤の切り離しは、やるべきではない。

◆県民銀行の設立が最善の選択
 この考えと似て非なるものに、首都圏の地銀などと持株構造などの下で傘下入りすることも構想されているようである。しかし、受け皿は地域経済の詳細な情報とネットワークを有している点に比較優位のある地元の組織であることが望ましい。原則論から言えば公的資金は受け皿金融機関に対して投入されるのであるから、地元利益を図るためには、債権の引取りが最も多くなる可能性の高い県民銀行(仮称)が一番だ(図:足銀破綻後の産業金融一体再生のイメージ 参照)。この場合、栃木銀行を受け皿とするか、栃木銀行と新しい銀行を作るか、独立の県民銀行を新設するか、という三つの選択肢がある。本稿では第1、第2の選択肢は留保しつつ、与信リスクの分散を勘案して、第3の県民銀行の設立について論ずる。なお、県外基盤を持ち続けるのなら、「県民」銀行というネーミングは迷惑だ、との批判は甘んじて受ける。これはあくまで仮称であり普通名詞である。

 現在の足銀の資産規模をローンの証券化や売却などにより大幅に圧縮し、毀損度を差し引いて大まかに試算すると、およそ1千億円の資本が必要になる(リスクアセット2兆円×自己資本比率10%×ティアT比率50%)。そのうち、地元は、株主総会での拒否権を行使しうる3分の1(350億円程度)を出資することが、当面の経営危機管理を図る上で望ましい。財源は県債を発行して調達する。郵政公社に引き受けてもらえば、郵貯の地域還元にもつながる。県議会内部からは、県議会棟工事の延期(80億円)や宇都宮市街地再開発組合(会長は知事)の余猶資金120億円の一部などを財源にする案も出ており、資金確保のハードルは高くない。予防的注入の新法を使うことも可能だ。かつてのごとく市町村や県内企業に奉賀帳を回してはいけない。要は、県当局の政治決断の問題である。なお、県は未来永劫株主である必要はない。新生銀行のように再上場を図り、市場売却によって投資を回収することは十二分に可能である。

 受皿県民銀行が受け入れる資産は、原則、正常先か地域産業再生計画によって正常化された債権でなければならない。この原則をないがしろにすると、再破綻のリスクを生じさせるだけでなく、期待収益率が低下するため、必要自己資本が集まらなくなってしまう。逆に県民銀行がこのような方針を明確化すれば、地元企業にプレッシャーを与え、地域産業再生計画の実行を促進するのである。

◆21世紀型金融モデルを実践せよ
 県民銀行は、金融・行政・産業の戦略的連携を考えたIT時代に相応しい情報処理システムを採用し、産業再生・少子高齢化に即応するネットワーク型のサービスを提供する体制を備えていることが期待される。例えば、家庭内に双方向のTV電話を設置し、防犯、福祉・医療と各種行政サービスの授受口としてのみならず、金融サービス用の端末(お茶の間ATM)として使用する。銀行が宿命として持っている情報処理機能を行政・産業と基盤を共有して付加価値通信網を構築すれば、コスト負担の分散と銀行経営の効率化が図られよう。

 東京都の石原知事は、中小企業に生きた資金を回すため、新しい銀行の設立を決め、その準備を進めている(図:東京都新銀行の提携戦略 参照)。注目すべきは、預金や融資という本来的銀行機能に加え、ICカードを使った全く新しい金融サービスの提供を盛り込んだことである。これにより、鉄道、航空、コンビニ、クレジットカード、保険、証券、情報通信会社はじめ有力企業が戦略的パートナーとして続々とその輪に加わりつつある。東京都自身も、施主として行政の効率化、サービスの質の向上を図ろうとしている。栃木県でも宇都宮市がIT時代に相応しい行政サービス提供のあり方について建設的取組みを行なう構えを見せている。これを呼び水として他の市町村にも産業・金融との連携が進むことを期待したい。

 また、県民銀行は、新しい中小企業金融を行うべきだ。例えば、売掛債権の買取り・流動化。信用保証協会のCRD(クレジット・リスク・データベース)を使えば、デフォルト率とディスカウント価格が導き出される。債権の仕入れ・回収には、地回り営業部隊が必要であり、雇用の受け皿にもなる。このような新型金融は中小企業の商慣行に新風を吹き込み、地域経済を活発化していく。また、優先出資や劣後ローンを提供する金融をやれば、日本型資本主義の構造問題を一気に解決することができる。

 足銀破綻は地域経済にとっては非常事態と言ってよい。長年地元に貢献してきた足銀はいずれどこかの受け皿に「処分」される。しかし、次の未来を見据えたビジョンをもって危機対応を行うなら、日本経済の断層を象徴した地方の復興モデルケースとなるであろう。最も重要なことは力を結集することだ。ピンチはチャンス。21世紀型地方再生は栃木から作りましょう。関係者や全国の皆様にご理解とご支援をお願い申し上げます。