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第16回審査結果

審査委員 (50音順・敬称略)…勝城蒼鳳・外舘和子・日原公大本間一秋諸山正則

最優秀賞(文部科学大臣賞)


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『 亀甲編盛籃 』
内藤 節子

受賞作品講評

浅めの小判型の手付き盛籃で、バランスをとるのが難しい把手は、取り付け部近くで屈曲させ
高さを抑えてあり、品よくおさまっている。見込みは濃褐色から淡い褐色の諧調の横ヒゴを
詰め縦編みのヒゴとで亀甲様の網代を編みだし精細さと端正さとを醸し出している。
外縁に巻きつけた平の竹ヒゴも無理がなく、束ねられた上面の三か所に波のような浮き彫りが
施してあるなど、細やかな気配りがしてある。造形性を強調する制作ではないが、きちんと
まとめ上げられる力量の程をうかがわせる作品であろう。

諸山 正則





優秀賞(栃木県知事賞)


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『 躍 動 』
渡辺 千明

受賞作品講評

この度、第5次放鳥のトキの様でもあり、滝に、飛び跳ねる鯉の様にも見える
象形的オブジェである。
2ミリ弱の竹幅の細四ツ目透編ボディーに、ササラ縁で形を整えてある。
題名道り、躍動感のある、新鮮な面白い作品である。
オーソドックスな伝統的作品群の中では、斬新な一面であろう。

本間 一秋




技能賞(大田原市長賞)


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『 千鳥編花籠(波照) 』
友成 晴美

受賞作品講評

壷型の作品の外側は千鳥編で内側はゴザ目編である。底を網代から七廻しをかけて丸く
広げられている。外側は高台から縁まで千鳥編である。編む前に2色に染め、その配分
と編の疎密によって模様を編み出している。その心配りは技術の裏付けがあって初めて
出来る造形の妙である。

勝城 蒼鳳





技能賞(大田原市長賞)


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『 三重六つ目編盛籃 「煌」 』
栗原 秀子

受賞作品講評

見込みを色みの異なる薄いヒゴで三重の六つ目編みとした盛籃である。編みのズレから
淡い竹色のヒゴがうかがえ、変化の面白みを与えている。
外側は、束ね透かしの編みとし、束ねのヒゴの展開が伸びやかで、韻律のよい空気感を
つくっている。重厚になり過ぎず、清爽な作行きを表している。

諸山 正則





デザイン賞(大田原市長賞)


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『 装 い 』
東 次男

受賞作品講評

さらりと着物をまとったような人の姿を思わせる筒形に近いフォルム。
赤と、やや赤みのある黒を編み込んだ配色は誠に粋であり、いかにも現代の装いの雰囲気を
醸し出している。
着物の合わせのようなラインと底面の縁は黒で引き締められ、洒落たデザインとなった。
安定した技術とモダンな意匠性によって、花籠としても、オブジェとしても成立しうる作品
となっている。

外舘 和子





デザイン賞(大田原市長賞)


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『 夢 幻 』
佐藤 敦子

受賞作品講評

夢幻を拝見して、人間国宝故飯塚小玕斎先生が、先年発表の花籃を思い起させて呉れました。
舟底の様な湾曲縁が印象的でした。
制作上、強弱・粗密等コントラストの妙を、モットーにしております。
夢幻は、幅広竹の力強い斜列を引締める、緻密な黒・朱二彩の網代胴編でコントラストを
つける構成が見事であり、亦、情熱的な快作でもある。
作者は、敢えて塗装を避け澁さを狙った様に見受けますが、艶をおさえた擦漆仕上げにして
みたい。

本間 一秋





デザイン賞(大田原市長賞)


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『 花籃 「星雲」 』
髙木 政美

受賞作品講評

前後の模様は中央を鉄線で編み、上、下を縦網代に編み変えてある。
口のある胴の部分は別に編んで前後を縁取りのところで立体に作ってある。
前後の縁取りの柔らかな輪郭線がこの作品を一層引き立てている。
作品の色調も良く全体が仄々とした感じに仕上げられている。

勝城 蒼鳳





新人賞(実行委員会委員長賞)


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『 鉄線編三重花篭 』
箱田 憲司

受賞作品講評

長く伸びた把手と小ぶりなボディとのバランスが美しい。
三重にした鉄線編みは、模様の変化とともにボディの厚みや奥行きを構築し
竹ならではの魅力を示している。
作者の竹芸経験年数はまだ2年であるという。しかし早くもセンスの良さと
可能性を感じさせる頼もしい作品である。

外舘 和子





審査委員会奨励賞


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『 多 彩 』
前田 悦子

受賞作品講評

網代編の手提の物入れですが、今迄にない感覚の作品である。籠の外に布を見えるように
デザインし新鮮味を加えたことでこの分野に新たな風を吹き込みました。この感性を今後の
創作に生かすことを期待いたします。

勝城 蒼鳳





審査委員会奨励賞


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『 かござ 』
相澤 志緒梨

受賞作品講評

この展覧会最大サイズの大作。竹のしなりを大胆に活かした椅子である。
背もたれなどに相当する部分を形成する竹の弧の「間合い」はさらに検討の余地があり
また、脚の造形的安定感も増強する必要がある。
しかし、そうしたマイナス面にもかかわらず、この作者の”空間に挑む”かのような
スケール感ある竹への取り組みは魅力的であり、今後こうした家具などの大作を手掛ける
作家の登場をも期待させる意欲的である。

外舘 和子





審査委員会奨励賞


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『 星影と花あかり 』
大塚 照吉

受賞作品講評

麻の葉編を裁断して網目の向を替えて筒状の形に変化を与えている。
この技法は応用の幅が広く作者の完成と共に発展し続けることが楽しみです。

 勝城 蒼鳳

 



審査委員会特別賞


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『 オブジェ 「輪舞 』
杉浦 功悦
 
受賞作品講評

竹の特性であり魅力でもある弾力的曲線を利用した造形作品である。
扇状のユニットを様々な角度で組み合わせて増殖するようなムーブマン(動勢)を試みて
いるが統一感に欠ける。
その方法として、動勢に方向性を付けるか、形に意味を持たせて(例えば雲、煙のように等)
ボリューム(感覚量)やリズム感を考える努力が必要。何回も試行を繰り返した結果をもう
一度見てみたい。

 日原 公大

 


~ 第16回 全国竹芸展 総評 ~

日原 公大


16回を数える今回は、「特に作品の優劣を決断する難しさを実感する審査会になりました」と書き出して最近は同じ事ばかり書いて
いるなと緩んだ顔をしています。
出品者の技術は向上し、作品の趣旨も明確になり、更には新しい造形の試みをする人たちも見え隠れする会場。それぞれの個性の美し
さを心に感じながら優劣を決めなければならない事にこんな辛い嬉しい思いをしたことはありません。
作品を判断する審査委員の基準はいささかも変わらないと思いましたが、やはり最優秀を決めなければならない場になると一層緊張し
選考の厳しさが増してきます。
作品の技術力が高められ、表現力も伯仲してくればくるほど、最終的判断になると審査委員の好みが表出してくるものです。
当然ながら、作品の中に編み篭められた個人の想い、作者の個々の環境が滲み込んだ素材の発色は、人を魅力する香りとなり周りの
作品と差別化を図ろうと致します。
兎出した作品は誰の目にも明らかに感じるのですが、レベルが高くなれば成るほど作品の魅力は独自の世界を形成して、区別化が進み
ます。そこに、一つに絞らねばならない理由の疑問と苦しみが発生するのです。

選考委員は、それぞれの立場で長年、美を追及してきた専門家です
改めてこの審査委員の顔ぶれを見ると、今年から新しい審査員、国立近代美術館・工芸館の諸山正則氏と美術評論家の外舘和子氏を
向かえ、人間国宝の竹工芸家・勝城蒼鳳氏、日展参与の竹芸家・本間一秋氏と私にて、更にバージョンアップを図りました。

大別すると選考は3つの目で審査が行われているわけです。
その1つは永年竹の世界で美しい作品を作り続け数々の業績を上げてきた竹工芸家。2つ目は、美術(工芸)の美しさ、成り立ちを
学問的に分析、研究している専門家。更には美術(立体)を制作して美の追及をしている彫刻家の3分野で構成されています。
選考はそれぞれの分野で培われた感性で行われ厳しい討論が繰り広げられるのです。

一つの意見で固まらないように広い感性で竹の美を発見し、奨励して次世代に発展的に繋げていこうとする実行委員会の考え方は見事
に的を射て今回は内藤節子氏作の亀甲編盛籃が最優秀賞に輝きました。一見すると何処にでもありそうな地味なフォルムの手付きの籃
ですが、ふっくらと作者の優しい想いが伝わる作品です。選考型の展覧会では派手な形や新しい試みが珍重されるのは否めませんが、
この様な真摯にてらわず技法を追求し作者の持ち味が滲み出た作品が選ばれたことはこの展覧会の良いところです。
5人の審査委員が個々の作品とじっくり付き合い「よいものは良い」と作者の感性を読み取った結果なのです。