16回を数える今回は、「特に作品の優劣を決断する難しさを実感する審査会になりました」と書き出して最近は同じ事ばかり書いて
いるなと緩んだ顔をしています。
出品者の技術は向上し、作品の趣旨も明確になり、更には新しい造形の試みをする人たちも見え隠れする会場。それぞれの個性の美し
さを心に感じながら優劣を決めなければならない事にこんな辛い嬉しい思いをしたことはありません。
作品を判断する審査委員の基準はいささかも変わらないと思いましたが、やはり最優秀を決めなければならない場になると一層緊張し
選考の厳しさが増してきます。
作品の技術力が高められ、表現力も伯仲してくればくるほど、最終的判断になると審査委員の好みが表出してくるものです。
当然ながら、作品の中に編み篭められた個人の想い、作者の個々の環境が滲み込んだ素材の発色は、人を魅力する香りとなり周りの
作品と差別化を図ろうと致します。
兎出した作品は誰の目にも明らかに感じるのですが、レベルが高くなれば成るほど作品の魅力は独自の世界を形成して、区別化が進み
ます。そこに、一つに絞らねばならない理由の疑問と苦しみが発生するのです。
選考委員は、それぞれの立場で長年、美を追及してきた専門家です
改めてこの審査委員の顔ぶれを見ると、今年から新しい審査員、国立近代美術館・工芸館の諸山正則氏と美術評論家の外舘和子氏を
向かえ、人間国宝の竹工芸家・勝城蒼鳳氏、日展参与の竹芸家・本間一秋氏と私にて、更にバージョンアップを図りました。
大別すると選考は3つの目で審査が行われているわけです。
その1つは永年竹の世界で美しい作品を作り続け数々の業績を上げてきた竹工芸家。2つ目は、美術(工芸)の美しさ、成り立ちを
学問的に分析、研究している専門家。更には美術(立体)を制作して美の追及をしている彫刻家の3分野で構成されています。
選考はそれぞれの分野で培われた感性で行われ厳しい討論が繰り広げられるのです。
一つの意見で固まらないように広い感性で竹の美を発見し、奨励して次世代に発展的に繋げていこうとする実行委員会の考え方は見事
に的を射て今回は内藤節子氏作の亀甲編盛籃が最優秀賞に輝きました。一見すると何処にでもありそうな地味なフォルムの手付きの籃
ですが、ふっくらと作者の優しい想いが伝わる作品です。選考型の展覧会では派手な形や新しい試みが珍重されるのは否めませんが、
この様な真摯にてらわず技法を追求し作者の持ち味が滲み出た作品が選ばれたことはこの展覧会の良いところです。
5人の審査委員が個々の作品とじっくり付き合い「よいものは良い」と作者の感性を読み取った結果なのです。
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