平成8年から始まった本展は今年で15回目を向かえる。アマチュアの竹工芸を奨励する趣旨で出発したこの展覧会は、回を重ねるごとに出品者の技倆は熟達し制作意識も高まり、ついにアマチュアの文字が外れて今日に至った経緯がある。毎年、出品者の増減は若干有るものの今回の134名の出展は、歴代4番目の誇れる高出品者数であり、全国的に認知度は高まった証でもある。竹芸を愛し、ここまで展覧会を育て支えている本展実行委員会の人たちの並々ならぬ努力に敬服するしだいである。審査は竹工芸家・勝城蒼鳳(人間国宝)、茨城県陶芸館館長・金子賢治、竹工芸家・本間一秋、陶芸家・藤原育三の各氏と私の5名で行った。
節目の年に相応しく作品群の質も高度なテクスチュアーを駆使しているものが多く見られ、楽しみながら審査を始めたが、暫くすると私の頭は徐々に混乱をきたしてきたのである。その原因は技術の優劣を競う作品があまりに目立ち、個性的な魅力を見出せなくなってきたからである。いざ、賞を決める段階に入ると案の定、審査委員各氏の意見も見事に分かれた。鍛錬の裏づけがありつつ斬新な発想の美を湛えた作品には、誰も異論の余地は無いのだが前者だけでは物足りないのである。
ただ、良い作品だけを選び順位を決める事が審査員の勤めであるのか、或いは個々の委員の真のメッセージをどの様な形で発信出来るのか等々、斬新な発想を希求するが故に審査の根幹に触れる議論から始まり、審査は事細かく長時間に渡って行われた事をここに特記しておく。作品の良し悪しを決める基準は、大まかに言うと@感動できる美しさを備えているかA斬新であるかB独自性があるかC何を表現しているのかに纏められる。
最優秀賞に決まった千葉県から出品の「スパイラルの魅惑」は上記の議論の中から選出された作品である。134点の頂点に立ったこの作品は、無骨に捩られた何本もの竹を縦に壷状の形に纏めた上昇気流を感じさせる潔い作品である。赤茶に染められた色彩も作品の形と呼応して固い信念と勇気が籠められている。ただ、最終的に議論の対象になったのは、肩口に取り付けられた二つの小さな耳冠である。この突起物は作品の力強い量感、上に伸びるムーブマン、湧き上がる生命感を感じさせるテクスチャーを損なうか否かで議論は伯仲したが、形の魅力、動勢の力、質感の強さが勝り、それらの注文を撥ね退けた。
造形物とは、不思議なものである。良かれと決断した方法が上手くいかない事は多々有り、恐る恐る試みたものが成功するこがある。作者はどのような想いで最後に耳冠を付けたのであろうか。悩みに悩んで取り付けたとしたら次作はさらに魅力あるものになるに違いない。長い美術の歴史を振り返ると、過去に同じような素晴らしい作品が幾つも存在する。我々はそれらと区別を付け創作する上で大事なことは、改めて作り手の熱き想いを作品に投影させなければならないのである。しかし誠に残念な事は、どんなに努力して創作しても人を感動させる美しいものが出来るか否かは、又、別物であると云うことである。どの様に技術だけを高めても作者が見えない作品は機械生産の部品のようで面白くない。
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