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第15回審査結果

審査委員 (50音順・敬称略)…勝城蒼鳳・金子賢治・日原公大藤原郁三本間一秋

最優秀賞(文部科学大臣賞)

『スパイラルの魅惑』  小野塚 昇

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『 スパイラルの魅惑 』
小野塚 昇

受賞作品講評

赤茶色のゴツとした塊が空に向かって飛び出そうとしている。
なんと言っても力強い量感と動勢は魅力的である。
作品は無骨に捩られた何本もの竹を縦に壷状の形に纏めた上昇気流を感じさせる潔い作品である。
赤茶の着彩も作品の形と呼応して固い信念と勇気が籠められており作者のセンスの良さを感じる。
肩口に取り付けられた二つの小さな耳冠は一考を要する。今後の更なる精進を期待したい。

日原 公大





優秀賞(栃木県知事賞)

『縄文様花籃 「卯」』  橋本 忠昭

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『 縄文様花籃 「卯」 』
橋本 忠昭

受賞作品講評

二重編みのゆりかご型に成形された花籃である。
表は基本的に6本の竹ヒゴが一単位となり、あたかも縄を編んでいくように
捩られて斜め上方に構築され、半ばから斜め反対方向に立ち上げられていく。
内部の見込みは桝網代、立ち上がりは網代編みとしている。
繊細で華麗な編みが作り出す文様世界は作者ならではのもので、これまで何度も
受賞しているが、本作はそれらを超えてまた新しいスタイルを作り出した。
赤のアクセントも控えめで効果的である。それが「卯」であろうか。

金子 賢治





技能賞(大田原市長賞)

『襷文松葉編花籠』 小坂 鐵男

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『 襷文松葉編花籠 』
小坂 鐵男

受賞作品講評

白錆竹の松葉編みに茶褐色の刺斜線し(即ち、たすき文)とのツートンの美しさと
四ツ目底編の四脚高台から同編への豊かな型と相俟って、ふくよかで格調高い作品に
仕上げた技術は、正に賞にふさわしい作品です。縁の一部に破綻がみられたのが残念。

本間 一秋





技能賞(大田原市長賞)

『 千鳥編花籃 』 薄井 敬二

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『 千鳥編花籃 』
薄井 敬二

受賞作品講評

形体ははシンプルだが、ディテールは変化に富んでいる。
特に胴の部分は斜めの千鳥編になっていて、なんの変哲もない形に動きを与えている。
又、ニ重編になっていて、内と外を茶と緑の反対色にしている為、重なっている部分が
茶緑色に発色して重厚さをかもし出している。
重なった部分と重ならない部分のバランスも絶妙だ。
全体におさえた表現だが、かえって好感が持てた。

藤原 郁三





デザイン賞(大田原市長賞)

『 寸胴 』 小山 忠男

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『 寸 胴 』
小山 忠男

受賞作品講評

文字通り寸胴(ずんどう)の照明器具である。孟宗竹を割り、ほぼ3種類の幅に揃えて
少し間をあけて支持体に打ち付けている。
内側に張られた和紙を通して柔らかい光が洩れるようになっている。
洩れるといっても直線的に光の縞が出現するので、竹の灯りと言ってもとてもモダンである。
竹には布にしみこませたステインを塗っている。その色感が竹の色と馴染み、縦縞の光同様に
モダンな明かりを演出している。

金子 賢治





デザイン賞(大田原市長賞)

『 オブジェ 「渦」 』 杉浦 功悦

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『 オブジェ 「渦」 』
杉浦 功悦

受賞作品講評

この作品は今回最も造形的な作品として、最初は評価が高かったが、器が中心の竹工芸の世界では
斬新な形であっても、彫刻の世界ではよくある形という事で、残念ながら最優秀賞には選ばれなかった。

しかしながら、竹の特性をうまく生かして、ハリのある形に仕上がっている。
ふくらみの部分を更につなげて連続性をもっと強調すれば貝という特定のイメージから脱却出来る
かもしれない。

何かの形を連想されないで、回転する力だけをストレートに表現してほしかった。
その方がオブジェとして、より存在感が増すのではなかろうか。

藤原 郁三





デザイン賞(大田原市長賞)

『 花籃 「透彩」 』 井上 守人

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『 花籃 「透彩」 』
井上 守人

受賞作品講評

竹工芸には、編と組と丸竹の技法があるが、この作品は組みによる櫛目技法で
表現された作品である。
素材の幅を違えて曲線で空間にリズムを表出して、竹ならではの爽やかな表現は
心地良さが伝わる作品である。

勝城 蒼鳳





新人賞(実行委員会委員長賞)

『 進化U 』 渡辺 千明

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『 進化U 』
渡辺 千明

受賞作品講評

そりのある形で力強く、オブジェとしては、なかなかの力作だ。
しかしながら、変化のある形にしては、すべてシンメトリックに組み合わせている為
造形としては安定しすぎて、多少おもしろ味にかける。
これからは、アンバランスの中のバランスという事を考えてみてはどうか。

藤原 郁三





新人賞(実行委員会委員長賞)

『 巻き六ツ目編みバッグ 』 服部 日出子

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『 巻き六ツ目編みバッグ 』
服部 日出子

受賞作品講評

六ツ目編で本体の形を作り、別の染めた材料で三方から六ツ目に巻き付けて加飾されている。
籠で作られているバックは殆どが中が見えなく編まれているが、この作品は今迄の概念に
囚われることなく、籠の爽やかな特性が生かされており好感のもてる作品である。

勝城 蒼鳳





新人賞(実行委員会委員長賞)

『 雲竜 』 鈴木 茂平

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『 雲 竜 』
平 郁夫

受賞作品講評

底を麻の葉編で始め、胴編は数枚ずつ合せて縁まで編み上げ、その先は返して胴に差して
下方に流して纏めてある。
従来は柾割の束ね編の作品が多く見かけられたが、平割材の作品のため一味違った趣のある
線の動きが見所である。

 勝城 蒼鳳




〜 第15回 全国竹芸展 総評 〜

日原 公大


平成8年から始まった本展は今年で15回目を向かえる。アマチュアの竹工芸を奨励する趣旨で出発したこの展覧会は、回を重ねるごとに出品者の技倆は熟達し制作意識も高まり、ついにアマチュアの文字が外れて今日に至った経緯がある。毎年、出品者の増減は若干有るものの今回の134名の出展は、歴代4番目の誇れる高出品者数であり、全国的に認知度は高まった証でもある。竹芸を愛し、ここまで展覧会を育て支えている本展実行委員会の人たちの並々ならぬ努力に敬服するしだいである。審査は竹工芸家・勝城蒼鳳(人間国宝)、茨城県陶芸館館長・金子賢治、竹工芸家・本間一秋、陶芸家・藤原育三の各氏と私の5名で行った。

節目の年に相応しく作品群の質も高度なテクスチュアーを駆使しているものが多く見られ、楽しみながら審査を始めたが、暫くすると私の頭は徐々に混乱をきたしてきたのである。その原因は技術の優劣を競う作品があまりに目立ち、個性的な魅力を見出せなくなってきたからである。いざ、賞を決める段階に入ると案の定、審査委員各氏の意見も見事に分かれた。鍛錬の裏づけがありつつ斬新な発想の美を湛えた作品には、誰も異論の余地は無いのだが前者だけでは物足りないのである。

ただ、良い作品だけを選び順位を決める事が審査員の勤めであるのか、或いは個々の委員の真のメッセージをどの様な形で発信出来るのか等々、斬新な発想を希求するが故に審査の根幹に触れる議論から始まり、審査は事細かく長時間に渡って行われた事をここに特記しておく。作品の良し悪しを決める基準は、大まかに言うと@感動できる美しさを備えているかA斬新であるかB独自性があるかC何を表現しているのかに纏められる。

最優秀賞に決まった千葉県から出品の「スパイラルの魅惑」は上記の議論の中から選出された作品である。134点の頂点に立ったこの作品は、無骨に捩られた何本もの竹を縦に壷状の形に纏めた上昇気流を感じさせる潔い作品である。赤茶に染められた色彩も作品の形と呼応して固い信念と勇気が籠められている。ただ、最終的に議論の対象になったのは、肩口に取り付けられた二つの小さな耳冠である。この突起物は作品の力強い量感、上に伸びるムーブマン、湧き上がる生命感を感じさせるテクスチャーを損なうか否かで議論は伯仲したが、形の魅力、動勢の力、質感の強さが勝り、それらの注文を撥ね退けた。

造形物とは、不思議なものである。良かれと決断した方法が上手くいかない事は多々有り、恐る恐る試みたものが成功するこがある。作者はどのような想いで最後に耳冠を付けたのであろうか。悩みに悩んで取り付けたとしたら次作はさらに魅力あるものになるに違いない。長い美術の歴史を振り返ると、過去に同じような素晴らしい作品が幾つも存在する。我々はそれらと区別を付け創作する上で大事なことは、改めて作り手の熱き想いを作品に投影させなければならないのである。しかし誠に残念な事は、どんなに努力して創作しても人を感動させる美しいものが出来るか否かは、又、別物であると云うことである。どの様に技術だけを高めても作者が見えない作品は機械生産の部品のようで面白くない。