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第10回記念審査結果

審査委員 (50音順・敬称略)…柏村祐司・勝城蒼鳳・金子賢治・日原公大・綿貫 清

最優秀賞(文部科学大臣賞)

『絞り網代編み盛篭』平野 貞一

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『絞り網代編み盛篭 』
平野 貞一


総評

早いもので全国アマチュア竹芸展は今年で節目の10回展を迎える。今般、重ねて大変喜ばしい事に初回から
審査委員の任に就かれている大田原市在住の竹工芸家勝城蒼鳳氏が重要無形文化財保持者いわゆる人間
国宝に成られた事である。これを契機に益々、この竹芸展は更なる発展を遂げるものと確信し嬉しい限りである。
今回の審査も、柏村祐司氏、勝城蒼鳳氏、金子賢治氏、綿貫清氏と私五人で厳正かつ慎重な審査が行われた。
各氏の感想は総じて意欲的な編みの技術の向上が認められるが作品の質が平均的であると言う点で全員の
一致が見られた。
壷の部類では同じような彩色が多く、繊細な編みに工夫を見せたものが大半を占めた。器の部類でも多彩な編み
の組み合わせと彩色物がたくさん出品されていた。筆者の総体的な第一印象は纒まりがあるものの作品の寸法
が決まったように同じで、独自の意匠を創造することを避け、倣いに満足している様な感想を持った。
作品の実力が伯仲しているだけに、賞を決める段階では審査委員の票が割れ大いに難儀をした。賞候補に選ば
れたそれぞれの作品について論議を重ね、今回の最高賞は平野貞一さんの絞り網代編み盛篭に決まった。
最近の作品者はアマチュアと言えども制作歴の経験の深い人もたくさん出てきている。長い経験を持つ作品者は
技術力も当然高まり、作者の想い通りの編み方が出来て、楽しく作品が出来ると思う。が、今ひとつ、その楽しみ
の心が筆者に伝わってこないのである。もちろん制作者自身は十分に楽しみを噛み締めながら制作をしている
ものだと拝察するのだが。
それでは何故、伝わらないのだろうか。
美術の世界で物を作るという行為は、自分にとって必要な目的を感じる時に一生懸命集中できるものであり
楽しみでも有る。その結果目的の物が完成する。しかし、残念ながら必ずしもそれが人の心を感動させ、豊かに
し、楽しく美しいものになるとは限らない事周知の事実である。美しい物とは表面的操作だけで生まれてくる物で
はないような気がする。それではどうすれば人を感動させる作品が出来るのか、直ぐ万人に通用する名案は持た
ないが可能性として先達が試みている方法「主題の選び方」に工夫を凝らす必要があるのではないだろうか。
毎回作る、なんの変哲もない題材でも、他人と異なる角度を変えた新しい方法から取り組んでみる事や、長年の
経験から知り尽くしているだろう素材の新たな基礎的な研究など、再学習をすることで新たな発見につながり
自分自身に感動を呼び起こすのではないだろうか。その感動要素が作品の中に沢山盛り込まれた時に観る人
を魅了すべく、輝くのではないだろうか。
多分、制作者の楽しい気持ちは作品の中で魅惑的に光り輝く美しいものとして永遠に人類の宝物として存在し
続けるのです。


                                                     審査委員長 日原 公大