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第12回審査結果

審査委員 (50音順・敬称略)…勝城蒼鳳・金子賢治・日原公大・本間一秋

最優秀賞(文部科学大臣賞)

『千鳥花籃』井出 賢

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『千鳥花籃』
井出 賢

受賞作品講評


ふっくらと下膨れの形をした籃で、首の部分を縦だけの組として透かし
変化をつけている。膨らみといい、口縁の曲線といい適度に抑えられて
実に絶妙なバランス感覚を見せている。
胴部の編みの下から上に向かって、横のヒゴが縦のヒゴを一本飛ばす
ところから二本飛ばすところに移行する部分で最も膨らんだ部分を作り
出し また、口部に向かって一本飛ばしに戻る。
その飛ばしを上から下へ向かうに従い右へ一つずつずらすことによって
いわゆる千鳥足型の「千鳥編」を作りだすのである。
                                    金子 賢治



優秀賞(栃木県知事賞)

『倫子網代竹手筥』山本 清彦 

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『倫子網代竹手筥』
山本 清彦

受賞作品講評


伝統模様の綸子網代を丹念に編み上げ、正確で堅牢な飾縁で纏った手筥。
仕上げの拭漆も上品な完成度の高い秀作です。次作の指針、網代模様の
創作(既存しない自作模様又は文字網代) と膨らみ天板仕上げ等の試みに
期待します。
                                      本間 一秋



優秀賞(栃木県知事賞)

『 束ね編み花籠「夕日のサハラ」 』長谷川 渉

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『束ね編み花籠「夕日のサハラ」
長谷川 渉

受賞作品講評

作品のモチーフが雄大である。また、作品そのものもおおらかである。
竹工芸でこのような表現を試みることは 至難である。内側を二本飛び
網代で網み、外側を束ねで青海編を応用し、黒いヒネをアクセントに
挿入し、イメージをより鮮明に仕上げてある。
従来には、なかった表現方法で 竹工芸に新風を加えた優品である。
                                   勝城 蒼鳳



優秀賞(栃木県知事賞)

『 網代編組花籃「萌2007」 』井上 守人 

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網代編組花籃「萌2007」』
井上 守人

受賞作品講評


他の作品と違い一見してモチーフが解る新鮮味あふれる造形上の可能性
が有る秀作である。
イタリア語でトルソと言う人の体を表現する方法を使い工夫した作品である。
トルソとは体の部分を誇張したり省略したりしてつくる作品のことである。
工芸であるからこそ何を作るか意識の明確さが要求されるなかで、着目点
は良く彫刻的で、期待が持てる。
                                      日原 公大



デザイン賞(大田原市長賞)

『 風車編み花籠「夢想」 』保木元 智香子

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『風車編み花籠「夢想」』
保木元 智香子

受賞作品講評


風車の文様と作者の想いを形に託した造形は、日ごろの研鑽の現れである。
籐の加飾も最小限に押え無理なく素材を生かし、用の美と言う工芸の良さを
充分に発揮された作品である。
                                       勝城 蒼鳳



デザイン賞(大田原市長賞)

『ハンドバック亀甲編』小原 民江

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『ハンドバック亀甲編』
小原 民江

受賞作品講評


磨き竹の淡いナチュラルな亀甲網代編みに、底角丸縁でまとめた上品なハンドバック。
飾口縁は、もう少し軽くしたく、持手とその取付けを堅牢に一工夫ほしい。
                                             本間 一秋



デザイン賞(大田原市長賞)

『 鉄線編花篭「楓」 』木村 利明

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『鉄線編花篭「楓」』
木村 利明

受賞作品講評


いわゆる鉄線編をヒゴを三本使うことによって洒落た感じに仕上がっている。
明るい色感に磨かれた二本のヒゴの間に紫に染められたヒゴをはさんで
一単位を作り、それを鉄線編に したもので、少し離れて眺めると、紫部分が
抽象画の線描 のような、あるいは何かアラベスク模様の壁画の一部のような
とても面白い効果を発する。そのあたかも壁のタイルのような板を二枚 太作り
の縁でしっかり固定し、中央を膨らませ、花篭としたものである。
その幾何学的なすっきりとした形、膨らみの緊張感。その心地よさが
デザイン賞となった要因である。
                                       金子 賢治



新人賞(実行委員会委員長賞)

『菓子皿』高木 宏

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『菓子皿』
高木 宏

受賞作品講評


楕円形の飾縁と底縁の覆輪の中に咲いたような、桝文網代が美しい菓子皿。
作者独自の工夫が、縁・網代編み・色彩と仕上げに施されてある。
今回唯一の新人賞。
                                       本間 一秋



審査委員会奨励賞

『千鳥編花藍』友成 晴美 『鉄線透し編花篭』高江 三男
『千鳥編花藍』
友成 晴美

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『鉄線透し編花篭』
高江 三男

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『遊月』前田 悦子 『 鈴竹手付花籃「遊舟」 』大貫 透
『遊月』
前田 悦子

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『鈴竹手付花籃「遊舟」』
大貫 透

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総評
今年で12回目を迎える全国竹芸展の出品範囲はその名の通り北は青森、南は九州と全国的に広がり社会的な認知を
得た事は喜ばしいと感じている。
審査会場も新しい大田原市那須与一伝承館に移されての新鮮なスタートになった。木の香も心地よい会場には中国
の兵馬俑抗のように整然と並んだ作品郡が所狭しと並べられていた。昨年から竹芸展のタイトルからアマチュアの文字
も取られ、出品作の技量は飛躍的に向上し審査員も舌巻く作品が多くなったがあっと目を見張るような
面白いものが
今年も少なかった。面白いものとは鑑賞者が心をときめかせ、晴れ晴れとさせられるものである。
アマチュアの冠が付いている時は編み方や技術力の
有無が賞の条件になる事が多かったが、今年は技術的には差が
無く、これは良い傾向であると直感した。案の定、審査員の会話は作品の形態やオリジナリティーの問題が中心になった。
作品を審査する時、それがどの様なグレードであっても大変緊張するものである。神経を研ぎ澄まし精神を統一して、何が
何処が美しいのか、何を語り掛けているのか作者の声を読み取らねばならない。心血を注いで製作したそれぞれの作品の
真実の声を決して聞き漏らさぬように。しかし、ここ数年作品郡の中に技術的に優れてはいるが、同じような作品が増え
真実の声が小さくなっている様な印象を禁じえない。それは、皮相の類型化と創造性の脆弱である。展作者の名を記して
出品する以上、他の模倣でなく唯一無二の己のもの、作家としての気迫が篭っていなくてはならない。例えば器を作るとき
個人の器に対する想いは皆違うはずである。それなのにどうして、こうも同じようなものが生まれて来るのであろうか。
真似はしていないとどんなに主張しても出来上がった作品は、厳然として事実を物語っている。では、どこに原因があるの
だろう。いろいろ理由は考えられるが、1番大きな要因は「作るもの」の形の意味、ビジョンが明確で無いのである。創作者は
何を作ろうとしているのか、それをどのように表現したいのか、どのように工夫しなければならないのかを常に認識しなけれ
ばならない。そして、何よりも作品が己の意思通りに出来ているかを絶えず確認して初めて芸術の門に立てるのである。
模倣からの脱却は大変な苦労が伴う 。その方法は個々で考えなければならない。
そんな想いを抱きながら審査委員諸氏「勝城蒼鳳、金子賢治、本間一秋、そして私」の4人で作品を拝見させて頂きました。

                                                         審査委員長 日原 公大