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第13回審査結果

審査委員 (50音順・敬称略)…勝城蒼鳳・金子賢治・日原公大藤原郁三本間一秋

最優秀賞(文部科学大臣賞)

『 縄文様花籃 「丑」 』橋本 忠昭

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『 縄文様花籃 「丑」 』
橋本 忠昭

受賞作品講評


ナチュラルな素材感の楕円深鉄花籃。満票近い好成績で選ばれた完成度の高い、秀作である。
柾竹の風車編出し網代編上げ、折返し口径部からの縄編斜陰称は、瀟洒な質感を醸し出し
効果的である。作者の毎回弛まぬ御丹精の程、心から敬意を表します。

                                                  本間 一秋



優秀賞(栃木県知事賞)

『 豊 華 』友成 晴美

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『 豊 華 』
友成 晴美

受賞作品講評


口径に比してやや縦長の花籃で、形の輪郭線は極めてシンプルな作品だが、それがかえって
強い造形感覚を印象付けている。それには形のシンプルさと対照的な色彩の華麗さが与って
いるのであろう。
三段に分割された編みは、上下段が茶と白の千鳥編、中断がゴザ網を少しアレンジしたものに
よっている。色数は以外に少ないが、その組み合わせ、漆塗の光沢、明度などが溶け合って
思いのほか華麗な雰囲気を作り出しているのである。また、内部を黒漆塗として外側に注目を
集中するように工夫し、また見込み底の網代編をアレンジして少し飛ばして変化をつけるなど
見えないところへの神経の使い方も細かい。

                                                 金子 賢治



優秀賞(栃木県知事賞)

『 透し編み花籃「揺らぎ」 』藤原 広子

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『 透し編み花籃「揺らぎ」 』
藤原 広子

受賞作品講評


竹芸の技術的な事は専門の審査員の方々にゆだねるとして、私はもっぱら造形性とデザイン性を重視した。
キーワードは「これが竹芸なの?」という意外性である。
この作品は、女性の帽子のようで思わずかぶってみたくなった。竹というよりもまるで布地のような柔らかい
雰囲気があり、女性ならではの感性が感じられた。つばの広さがもう少し広いと、尚一層広がりが出て
「揺らぎ」のイメージがさらに強調出来たのではないか。

                                                         藤原 郁三



優秀賞(栃木県知事賞)

『 鉄線編花籃「漣」 』大貫 透 

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『 鉄線編花籃「漣」 』
大貫 透

受賞作品講評


鉄線編は底の部分ですが、漣という銘は、外側の胴の部分の文様です。波文様はこれまではヒゴの幅を違いて
編みましたが、この作品は幅の同じヒゴを合せによって波文様を表現し、波の動きも不規則化し、漣をサラリと
演出してあります。また、縁下と両サイドを透し編として、漣のハーモニーを引き立てて優品である。

                                                           勝城 蒼鳳
 



デザイン賞(大田原市長賞)

『手付盛皿』木 宏

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『手付盛皿』
木 宏

受賞作品講評


手付桝網代盛皿は、デザイン賞トップに選出のアイデア作品である。浅い窪に押絞った
四角網代板を対角二隅を裏面へ折返し高台とし、角縁に沿う肩張り取手は、この作品の
見所である。又、波状の細縁は硬さを軟らげている。頂上の淡路文は、重過るのではと
存じます。

                                              本間 一秋



デザイン賞(大田原市長賞)

『 風車あじろ編み花籠「装い」 』保木元 智香子

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『 風車あじろ編み花籠「装い」 』
保木元 智香子

受賞作品講評


三角面の面取りが形体の中にうまく隠されていて、立体感のある力強い作品に仕上がっている。
又、全体の形が微妙にゆがんでおり、そのアンバランスさがかえって造形的だと思った。
ただ、下の力強いフォルムに対して口の形が大き過ぎるので、せっかくの造形性がそこなわれて
いるように思う。もう少し全体にシンプルにまとめて欲しかった。

                                                  藤原 郁三



デザイン賞(大田原市長賞)

『陽 光』長峯 俊子

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『陽 光』
長峯 俊子

受賞作品講評


ざっくりしたランダムな隙間を生かした編み方で、さざめく大海原か平原の陽光を連想させるおおらかな
作品である。拭き漆で染めた竹が光の波間を優雅に、そして力強く表し空間をダイナミックに表現して
いる。このモアレなムーブマンがこの作品の特徴であり作者の感性である。
重く沈滞気味の表現が多い中、軽やかな量感と動きの絶妙なバランス感覚のよさは群を抜いて明るい
未来を感じさせる。

                                                      日原 公大



新人賞(実行委員会委員長賞)

『 電気スタンド「雪明かり」 』大塚 照吉

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『 電気スタンド「雪明かり」 』
大塚 照吉

受賞作品講評


新鮮な作りの電気スタンドである。内側は差し四ツ目で編み、周りに紙を張っている。
外側は口から始まり、網代から四ツ目に編み形を整えている。軽やかな明るい形体に
対してスッキリした手が付けられて、これからもこの感覚の発展が期待出来る作品である。

                                                勝城 蒼鳳



新人賞(実行委員会委員長賞)

『窓辺に見るドーム』伊藤 賢三

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『窓辺に見るドーム』
伊藤 賢三

受賞作品講評


肩衝きの、まさにドーム状の形をした花籠である。口縁から肩の部分を松葉編とし、その松葉編の縦が
そのまま下へつながり、束ね編として胴部の装飾を作る。胴部はさらに格子状の内側をつくり二重とする。
内部にはシリンダー型の網代編を作り、その底は菊底編としている。外側の二重構造は束ね編と格子状
の組み合わせが、まだまだしっくりと行っていない感があるが、かえってその不思議な感覚が、今後の
新しい表現の可能性を予想させ、期待感を持って新人賞とした。

                                                        金子 賢治



新人賞(実行委員会委員長賞)

『煤竹投入花籠』五味渕 ツ子

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『煤竹投入花籠』
五味渕 ツ子

受賞作品講評


底はクモの巣編として、腰から上部は重ね四ツ目編などで編み上げている。口と手は煤竹を曲げて作られて
いるので、作品を通して言えることは初歩の技法をフルに活用してこの作品は作られており、全体の雰囲気も
良くこれからの作風の幅が広がる作品です。

                                                          勝城 蒼鳳


〜 第13回 全国竹芸展 総評 〜

日原 公大


年々、殺伐とした事柄が増え、文化芸術の話題が少なくなり寂しい世の中に成りつつある昨今
本年の出品数が若干増加したことは嬉しい限りです。
今回、審査対象となった作品は“竹”王国栃木県大田原を中心に、北は青森、南は大分と全国
から見ごたえのある作品が総数127点集まりました。その上、例年に比べると技術的に密度
の高い作品が大半を占めるようになりました。審査委員勝城蒼鳳氏、金子賢治氏、本田一秋氏
と今年から新たに藤原郁三氏を加え、私と五人で厳正に楽しく作品の審査をさせて頂きました。
ずらりと審査会場に並んだ作品は年を経るごとに技巧的に優れたものが多く、何れも優劣つけ
がたく選考するのに大変苦労致しました。案の定、審査員の意見は見事に分かれ、どの賞も
僅差の勝負になりました。その中でも最優秀賞に輝いた縄文様花籃「丑」は、新鮮さで群を
抜き、独自性、完成度もあり、文句なしの受賞であったことは今展覧会の特筆すべき点です。
全国からの応募もここ三、四年は安定した出品数を得ており、全国竹芸展の存在が幅広く浸透
していると実感し頼もしく感じております。
さて、機会が在る度に述べておりますが、確かに技巧的には年々見事な作品が増えております。
しかし、一抹の不安があることも否めません。冒頭に僅差の勝負になったと書きましたが
言葉を変えると同じような物ばかりが多数出品されているともいえます。他人との差をつけると
言うことは展覧会では特に求められるものです。特色豊かな個性的な作品が少なくなる傾向に
あるのは残念でなりません。
今回、審査の過程で問題視されたことは、何故こんなに同じ形のものが多いのだろうかという
ことです。確かに竹芸の性格上、形や技術の上で制約もありますが、其の制約を越える努力が
必要で、其の過程で少しずつ人と違う形が現れて来るのだと思います。
竹を習い始めて間もない人の出品は大いに歓迎するところです。しかしながら、師の教授する
形を其のまま展覧会に持ち込んでは創造の趣旨に外れます。創造する事については個々様々な
思いが有りますが、共通することは創造とは常に新鮮であり、明るい未来を感じさせなければ
成らないのです。其の上、人に勇気と希望を与えるものが加味されれば云う事はありません。
残念ながら、目を見張るような作品が年々少なくなるのはなぜでしょうか。同じ人間が二人と
して居ない様に作品も同じ物は出来ないのです。人を感動させる良い作品を作る上で大事な
ことは、日々の生活の中で作者の感性を高めることです。普段見過ごしている風景や身近な
自然に少し注意を払うと思い掛けない美しい物、美しい事象に気が付きます。ただ作品を造る
ために手を動かすのではなく、その発見の喜び感動を自分に必要なものとして創作してみては
いかがでしょうか。